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「私の肉体はもうございません」
「……え」
「すでに死しているのです。しかしながら、生命を司る私は死者を統べる女王イザナミ様に疎まれており、黄泉へゆくことも叶いません。魂のみのまま、依り処となる肉体を見つけては死に、また見つけては死に……ということを、何千年と繰り返してきました」
「いまのさくは、魂だけの存在……? 高千穂先生は、さくに身体を貸してるってこと……?」
「はい。魂依代は、私の神気に耐え得る肉体である必要がございます。高千穂家は、ニニギ様と生前の私との間に生まれた子の一族……つまり朔馬は、私共の末裔なのです。血族であるからこそ神気も馴染みやすく、とりわけ朔馬はその才に恵まれておりました」
サクヤの話す通りならば、ひとつ気にかかることがある。
「高千穂先生自身が、身体を貸すことを承諾してるんだよね?」
サクヤのことだ、無理を強いることはしないだろう。
両者の間には合意があった。ほぼ確信しながら問えば、サクヤは静かにうなずく。
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