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「お礼を言うのは私のほうです。ありがとう、穂花」
「私、なにかしてあげられたかなぁ?」
「兄上の御心を、救ってくださったではありませんか。苦悩される様を傍近くで眼にしておきながら、私は散るばかりで、なんのお力にもなって差し上げられませんでした……」
しばし言葉を咀嚼した穂花は、ややあってわずかに身体を離し、物憂げな神と見つめ合う。
「さくは頑張ってたよ。紅もちゃんとわかってくれてる」
「そう仰っていただけますと、嬉しいです。穂花のおかげで、いまの兄上は、穏やかなそよ風のようです。かつてのお優しい兄上……必ずや幸せを見つけてくださると願い続けた年月は、無駄ではなかったのですね」
「きっとそうだよ。だからさくも、自分の幸せについて考えてあげて?」
「私の……」
繰り返した拍子に、ふわりと桜が香る。
女人のように美麗なかんばせをわずかに伏せたサクヤは、しばしの沈黙の後、鈍く音をつむぐ。
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