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たとえどんな非日常が訪れようと、恐ろしいほどに顔色を変えず、時は流れてゆく。
「もぉ、紅のばかぁ……! 思い出させるから、身体が痛くなってきたじゃない……!」
自分は神なのであろうが、現代日本に生きる女子高生にもちがいない。今日が休日で良かったと、心の底から感謝する。
普通ならば部屋でおとなしくしているべきなのだろう。実際あの兄弟にもそう勧められた。
だが色んなことを一度に聞かされ、張り詰めた風船が弾けてしまいそうだった。
じっとしていても身体がなまるだけだという思考も手伝い、散歩というささやかな気分転換に乗り出したわけだ。
鶯が歌う庭へ、靴に履き替えて出づる。空高くから照らす陽光がまぶしい。
そんな中でも堂々と咲き誇る椿たちは、霞むどころか、より鮮やかに思えた。
「――穂花」
そよ風が髪をなびかせる。
名を喚んだのは淡泊な声音。親しい仲だからこそ、秘められた熱に気づけるほどの。
振り返った先で、若草色の衣がはためく。
「……まちくん」
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