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紅は家事から穂花の身の回りの世話に至るまで、なんでもそつなくこなしてみせる。口を挟む間もないほどに。これほど神らしくな……家庭的な神もいないだろう。
否、神ゆえになんでもこなすことができるのか。成程、これぞ全知全能。
「吾妹、如何されたか? 急に黙り込みなさって」
「……」
「吾妹」
「…………」
「……構ってくれ、細君」
……まずい、と箸の手が止まる。
吾妹と喚ばれているうちはまだいい。
しかし細君はどうだろうか。
どちらも愛する女性の呼称であるが、前者は軽いたわむれ、後者は魅惑的な睦言というように紅が使い分けていることを、長年の経験から導き出していた。
いつもいつも出し抜かれているのが面白くなくて、なんとなく無視をした結果がこれとは。
沈黙を訝しんだか。
紅は主の背へ近づくと、射干玉の長髪をそっと掻き分け、のぞく白いうなじに朱の唇を寄せる。
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