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「――姉様なら部屋にいるよ。ご挨拶したほうがいいんじゃない?」
ゆらりと振り返った常盤色の瞳には、妖しげな輝き。
ろくに考えるまでもなく、駆け出していた。
木板の鶯が、忙しく鳴く。
「穂花っ……穂花!!」
桜の衣を振り乱して向かった先は、不気味なほどに静まり返っていた。
嫌な胸騒ぎがする。
突き破るようにふすまを開け放ったサクヤの目前に、飛び込んできた光景は――
「あらあら。賑やかなお客様ですこと」
――時が止まった。
これは、夢か幻なのだろうか。
「まるで幽霊でも見るような眼ね。無理もないけれど」
聞き慣れた少女の声音ながら、その落ち着きようは平生とはちがう。
「久しぶりね。こちらにいらっしゃい。お話ししましょう?」
――確信した。
夢でも幻でもない。
やかましいほどに脈打つ自身の鼓動が、そう告げていた。
「ニニギ、様……」
絞り出した声は掠れて、静寂に消えゆく。
それも満足げにとらえ、目前の神は美しく、花のように頬笑んだ。
「会いたかったわ、サクヤ」
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