*27*鶯の鳴く夕

12/12
472人が本棚に入れています
本棚に追加
/479ページ
「――姉様なら部屋にいるよ。ご挨拶したほうがいいんじゃない?」  ゆらりと振り返った常盤色の瞳には、妖しげな輝き。  ろくに考えるまでもなく、駆け出していた。  木板の鶯が、忙しく鳴く。 「穂花っ……穂花!!」  桜の衣を振り乱して向かった先は、不気味なほどに静まり返っていた。  嫌な胸騒ぎがする。  突き破るようにふすまを開け放ったサクヤの目前に、飛び込んできた光景は―― 「あらあら。賑やかなお客様ですこと」  ――時が止まった。  これは、夢か幻なのだろうか。 「まるで幽霊でも見るような眼ね。無理もないけれど」  聞き慣れた少女の声音ながら、その落ち着きようは平生とはちがう。 「久しぶりね。こちらにいらっしゃい。お話ししましょう?」  ――確信した。  夢でも幻でもない。  やかましいほどに脈打つ自身の鼓動が、そう告げていた。 「ニニギ、様……」  絞り出した声は掠れて、静寂に消えゆく。  それも満足げにとらえ、目前の神は美しく、花のように頬笑んだ。 「会いたかったわ、サクヤ」  
/479ページ

最初のコメントを投稿しよう!