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花でも摘んでいたのだろうか。膝を折っていたそのひとは、自分の喚び掛けに身じろぐ。
彼女の長い射干玉の髪は美しくてとても好きだけれど、背中をすっぽりと覆ったそれがいまはひどく恨めしい。
隠さないで。早く見せて。そのかんばせを……
「……どちらさまですか?」
そよ風とともに振り向いた想いびとの言の葉に、びくり、と肩が跳ねる。
寂しく思った。そして仕様がないか、とも。
「大変失礼いたしました。突然こんな姿でお目にかかっては、驚かれてしまいますよね」
非礼を詫びたあとは、行儀よく手と手をそろえ、ふわりと花の頬笑みをほころばせる。
「わたくしです――イワナガヒメでございます」
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