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ㅤタケミカヅチは上機嫌だった。かの神を見知った者が、目を疑うほどに。件の軍神は、今日も勝手知ったる我が家のごとく、オモイカネの邸を闊歩する。
「ニーニーギちゃん、みーっけ」
「きゃあ~!」
「あはは!ㅤ見つかっちゃったねぇ。ざーんねん」
ㅤ物言わぬ土人形のみが行き交う回廊にて、柱の影に小柄な身を忍ばせ、きょろきょろと見当違いの方角を警戒する幼子の、なんといじらしいことだろうか。気配を消すことは得意中の得意分野とはいえ、得も言われぬ感情が燃え上がり、暴れ回る。まるで、胸中に龍でも飼っているかのよう。
ㅤけれども、力加減を見誤ってはならない。知恵の神でこそないが、タケミカヅチにも学習能力は充分に備わっていた。歩み寄る足取りは性急に。包み込む腕は羽根のように。そうして待ちわびた少女との対面に、歓喜に、全身の震えを抑えられない。
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