*48*喪失の記憶

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「……あぁ、姉様。遠い……姉様が、遠いよ」  ほろり、ほろりと朝露のような雫を双眸からあふれさせながら、タケミナカタは穂花(ほのか)を抱きすくめる。 「僕にはもう……何もなくなった」  か細いつぶやきを、物悲しく啼いた風がさらってゆく。  悲痛なタケミナカタのすがたに、穂花の胸は張り裂けそうになるけれども、〝ニニギ〟は口を開こうとしない。 「……あぁでも、ごめんね」  すがりつくように穂花の肩口へ顔をうずめていたタケミナカタが、ふいに視線を上げる。 「水神(へび)は執念深いんだ」  ほほを濡らしたまま薄く笑むタケミナカタには、どこか危うげな印象があって。 「諦めてなど、やるものか」  穂花の細腕をつかんだ手は、華奢な体格からは想像もつかない力で、ギリギリとしめつける。  それはまさしく、蛇がとぐろを巻くかのごとく。 「――ニニギノミコト。あなたがどれだけ天の高い場所にいようと、必ずこの腕に巻き取って……僕の愛慕(おもい)を、正しくあなたにわからせてやる」  ――たとえ何百年、何千年かかろうとも。  獰猛(どうもう)に獲物をねらう常磐色の双眸に、射抜かれたが最後。  穂花の意識は、ぷつりと途切れたように暗転した。
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