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脇の桜をも凌駕する幹は、その巨体に見合わぬしなやかさで少女を譲り受け、蒼き身体に巻き込んでゆく。
やがて茜へ溶け消えた気配に、紅は笑みを消す。
「貴女様の代わりに、わたしが掃除を致しましょう」
紡がれた言の葉に、もはや温度は存在しない。
散った桜を踏みにじるようにきびすを返した先で、ひとつ風が吹く。
刹那の折りに視界をくらませた夕焼けの向こうより見出だすは――飴色。
「……よう」
たった一言。以降は口を真一文字に引き結ぶ青年……真知を前に、狐の面から覗く唇がほころぶ。可笑げな、嗤い。
天道を歩く夕風に、面紐の鈴がしゃらり、しゃらり。
これぞ、因縁の邂逅。
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