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凛然たる宣言の余韻に、対峙する二柱。
その間を春の夕風が肩身を狭そうにして吹き抜け、宵の向こうへ消えてしまった。
「かしこまりまして。では――……」
優雅な所作で辞儀をするものと思われた一瞬のうちに、鈍い輝きが鼈甲をよぎる。
「愉しみに、しておりますね……?」
穂花の後を継いだ右手は、竹箒を握っていたはずと記憶していたが。
押し当てられた硬質なそれは、研ぎ澄まされた冷たさで頸動脈をしかと捉えていた。
――白銀の片手剣。構えの風格から、にわか仕込みでないことは容易に見て取れよう。
「宜しく」
微塵も動じぬ単調な返答に、花の笑みがひとつ、ほころぶ。
茜に散らされ、舞い狂う薄桃の……此花のように。
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