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「私を……憶えておいでなのですか?」
「よくわからないけど……とても大切な存在ってことだけは、わかります……こうしてふれられているのが、厭じゃないもの……」
自身を組み敷いた男に抵抗するどころか、笑顔の蕾をほころばせる穂花。
慈愛に満ちた手つきで頬を撫ぜられては、朔馬の胸は、塞き止めていた慕情で見る間にあふれ返った。
「穂花……さま」
朔馬は応えを得るより先に、音を絞り出した唇を寄せる。
ひとたび逡巡し、こわごわと、桃色に色づいた穂花のそれを啄んだ。
「……っん……」
穂花は拒むことをしなかった。朔馬が他者を手荒に扱う男ではないと、心の奥底で知っていたから。
受け入れられているという事実もまた、安堵とともに朔馬へ更なる熱情を与えた。
「ご無礼を、お赦しください……っ!」
それは余裕をかなぐり捨てた、切なる断り。
咀嚼する暇などあろうはずもなく、穂花の呼吸は奪われる。
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