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*17*面の秘密
用意されていたのは、目眩がするほど美しい紅蓮の花びらが浮かべられた、椿風呂。
平生から庭の生け垣を丹念に手入れしている紅であるから、彼としても自慢の花湯船に違いない。
椿風呂を堪能した後は、肌襦袢に袖を通すなり、紅につかまる。
自室へ直行してされることとなれば、やはり紅の手によって、念入りに髪をとかされる以外になかった。
「穂花の黒髪は、この世で最も美しいですな」
「おかげさまでね」
こうした髪の手入れは紅の日課らしい。愛用のつげ櫛には椿油が染み込ませてある為、椿風呂上がりの今日に至っては、このまま椿になってしまうのでは、と思ったほどだ。
「ねぇ、紅。さっきからものすごく気になってること訊いてもいい?」
「如何なされたか」
髪を梳く仕草は実に上機嫌で、まるで感触を楽しんでいるかのようだ。
好きにさせたまま、鏡越しに問いかける。
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