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*23*天裂く弓矢
高天原も時分は夜。穂花は気怠い身体を動かし、書斎へと出づる。仕事を持ち帰った真知が、夜更けまで筆を走らせている一角である。
「――天孫降臨に至るまでのことを、教えてほしい?」
小難しい書簡から逸らされたかんばせは、橙の仄明るい灯明に照らされ、夜闇でわずかな渋面をつくった。
「俺とそれはそれは仲睦まじく暮らしていた――だけじゃ満足出来ないか」
「思い出した記憶が断片的なの。教えてくれたら、まちくんとの想い出も蘇るんじゃないかなぁって」
「俺にもメリットがあるにはあると……おまえも口達者になったな」
聡い真知のことだ。ふ……と口許に笑みを浮かべたところを見れば、穂花の思惑に気づいているのだろう。
「いいぜ。寝物語に昔話を聞かせてやろうか」
硯に筆を寝かせ、椅子から腰を上げた真知は、穂花の手を引いて部屋の奥、寝室へと誘う。
天蓋つきの寝台へ並んで腰かけたなら、ひと回りちいさな肩を抱き寄せ、体重の一部を引き取った。
月明かりのみが射し込む部屋に、ひとときの静寂が訪れる。
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