*25*神代の契り

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*25*神代の契り

 ――外面のいい社交辞令などというものは、遥か昔、神代の時代から、すでに始まっていたのかもしれない。 「お言葉の通り、神託を致しましたところ、見事豊作に恵まれました」  或る日。(あし)(はらの)(なか)()(くに)に信奉者を持つ天津神が、高天原(たかまがはら)にあるオモイカネの邸に足を運んだ。 「あの村が田に引いていた川の水は、作物には向かない。少し手間がかかるが、裏山の湧水に変えたほうが、作物との相性が良かったからな」 「ほう、左様でございましたか! いやはや、流石オモイカネ様でございます!」  書簡へ署名を記す視界に、大げさな賛美を行う神の仕草がちらつく。  たったひと言ふた言がオモイカネの筆を鈍らせ、滲み模様を作ったことを、件の神のみぞ知らぬ。  
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