*5*狂乱の花宴

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*5*狂乱の花宴

 無人の屋上に独り残された付喪神は、すぐに主を追うことはしなかった。 「いけませぬなぁ……何事も、御身体が資本でしょうに」  咎める口調でありながら、手元へ返された重箱の重みに、くつくつと笑みがこぼされる。  この分ならば、半分も減っていないだろう。蓋を開けずとも見てとれる事実は、(べに)へ熱を与えた。 「わたし好みの身体になっておる……手ずから躾けた甲斐があるというもの」  愉悦の声音と共に陽光へ差し出された重箱が、ぼう、と紅蓮の烈火に包まれる。 「もう、用済みであろう」  爆ぜることも、煙を残すことも赦されず、木の箱であったモノは、まばたきの刹那に消し炭と成り果てる。  散った桜のようだ――と、華奢な右手のひらを掲げた紅は、春風にさらわれるソレを恍惚とした紅玉に焼きつけた。  振りあおいだ視界は蒼。雲ひとつない天道を見据えれば、天界までも捉えることができるのではと、妙に浮き足立つ。 「――昼は過ぎました。万物は流転し、陰気に満ち充つる。貴方様の舞台ですね」  (ざく)()の実が弾けたかのごとく、紅蓮の瞳が人影を捉える。  
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