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*6*茜の蜜語
「紅がいないなんて、明日は雨?」
口を衝いた言葉に、三拍置いて勢いよくかぶりを振る。
茜に濡れる校舎裏にて、穂花は独り。昼休みに別れて以来、紅と顔を合わせていないのだ。
どんなときも傍を離れず、常人の眼に映らぬのを良いことに教室にさえ居座る付喪神が。
「別に、寂しいわけじゃないし……っ」
鬱陶しいほど傍にいるものだから、いないと調子が狂うだけだ。他意はない。
雑念をも一掃するように、足許の落ち葉を竹箒で掃く。
一瞬後には謎の疲労感に襲われて、盛大な嘆息をもらしたが。
「掃除したり落ち込んだり、忙しいなおまえ」
「ふぇっ!?」
完全なる不意討ちに、文字通り飛び上がってしまう。
淡々とした口調は相も変わらずで、好んで穂花に話しかけてくる人物といえば、ひとりしかいなかった。
「ま、まちくんじゃない……!」
「幽霊でも見るような眼はやめろ」
「ビックリしたんだもん……いま帰りなんだ」
野暮な話だとは内省した。学校指定の通学鞄を提げているのだから。
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