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*8*散りゆく此花
茜に焼き付いた校舎裏に、影法師がひとつ、ふたつ。
どれほどの間対峙していたか。それは、双方にとって些末なことであった。
「これはこれは。名高き天津神殿が、しがない付喪神に何用でしょうか」
紅は口角を上げ、花のように頬笑んでみせる。
「付喪神……ね」
小首をかしげた姿は、会釈をしているようにも取れる。
まことしやかな挨拶は、真知に柳眉をひそめさせた。
「思ってもないことを口にするのはよせ」
「これは失敬。礼儀を重んじよと、父に申しつけられておりますゆえ。お久しゅうございます――オモイカネ殿?」
紺青の袖を当ててくすくすと紅が笑えば、さやさやとそよぐ薄桃の桜。
「――懲りずに我らの邪魔を。禍津神が」
上機嫌な草笛の声色は豹変。奈落の底より容赦なく言霊の矢が打ち放たれる。
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