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*9*小袖の五月雨
「べに、おんぶ!」
大粒の琥珀が、まだ茜の空をうんと見上げていたころ。数拍を経て、丸みを帯びた紅玉がふ……と和らぐ。
「……本日は〝だっこ〟ではないのですな?」
「おんぶがいいの! おんぶ!」
「御意のままに」
何故という言外の問いに、穂花は我を突き通す。
主は齢3歳を満たした程度だ。適当であるか、と紅は結論づける。
黄金色に仄光る草むらにて右の膝頭をつく。背を差し出せば、幾許もなく肉弾に見舞われる。
逃げるはずもない相手めがけ、いとけない少女は思いきり踏み切ったらしい。
お次は奇妙な息苦しさを覚える。両肩にかけて摩擦を伴うそれは、おそらく、常日頃から紺青の衣と合わせている桜霞の領巾を引っ張られている為と思われる。
「お馬ごっこをご所望か、吾妹」
「ひらひら~」
問いが聞こえているのかそうでないのか、穂花は此花色の服飾をくいくいと引っ張るばかり。
紅の神気により、平生は重力の洗礼を受けることなくひらり、ふわり、と大気を漂う細長い布切れは、手綱と化したようだ。
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