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*10*此花咲くや
くすぐられるような感触に、夢路の奥底から浮上する。
常夜灯に映し出される木目。見慣れた天井。薄明るい自分の部屋。
ぼんやりと夢見心地に浸っていた穂花を、またもやくすぐるものがある。
「わっ…… 蒼!」
血のような長い舌でちろちろと左の頬をくすぐる犯人は、天色の鱗を持ち、常磐色の瞳で穂花を見つめる、ちいさな蛇だった。
といっても角が生えていたりと、蛇らしからぬ姿をしている為、あくまで似たようなもの、という認識ではあるが。
「蒼ったら、くすぐったいよ!」
たまらず飛び起きれば、蒼は跳ね退けた羽毛布団の端を這い上がり、穂花の左の手の甲に身体を寄せてこてん、と頭を前に垂れる。ごめんなさいとでも言っているかのよう。
これでは憎むに憎めない。思わず笑ってしまって、名前を喚びながら、蒼を手のひらに乗せた。
まったく、このちいさな蛇は、以前飼っていた柴犬のクロよりも利口だから困る。
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