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*11*愛しき口づけを
つい数時間ほど前に初めて言葉を交わした若き養護教諭は、人ではなかった。
そればかりか、ほかでもない穂花に対して、伴侶である旨を告げたのだ。
「驚かれたことでしょう。一教師が生徒の自宅に無断で上がり込んだとあっては、不信を抱かれても致し方ありません。ですから神体でお目にかかった次第なのですが……まだ神力を上手く制御できず、申し訳ございません」
朔馬が神、そして夫――もちろん身に憶えも証拠もない。
なのに何故、こうして気丈に頬笑みかけられると、無性に胸がさわぐのだろう。
「サ……クヤ……」
口を衝いたのは、目前に在る青年の名ではなかった。
ほとんど無意識のまま、脳裏に刻まれた麗しき神を想い青年へ腕を伸ばすことを、止められない。
「サクヤ、サクヤ……開耶」
――此花開耶姫――
思い浮かんだままに言霊を飛ばす。
菫の瞳が、にわかに見開かれた。
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