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*13*花の烙印
漆黒の天道に、寥々と昇る孤月。
頼りない仄明かりにぽうと浮き上がった神がひとたび頬笑むと、呼応するかのごとくさやさやと椿の葉がそよぐ。
その紅蓮の冷気に、穂花は朔馬の上着を羽織り直した。
「よう、遅いお出ましじゃないか」
ずいと、穂花の1歩前へ踏み出る真知。それによって冷気は遮られた。
真知がどのような面持ちをしているかは伺い知れないが、対峙する美しき少年の姿をした神の紅玉が、す……と細められたことは事実。
「ふふ……此度の誓約に先立ち、高天原の天津神様方におねがいへ伺っておりましたゆえ」
「なるほど。しょうもないヤツに、しょうもない提案をしたことはわかった」
「手厳しいですな。我ながら妙案と自負しておるのですが……またのちほど」
優雅に頬笑んでみせた紅は、ここで穂花と並び立つ朔馬へ視線を寄越す。
「なにをしておる、サクヤ。早う兄のもとへ来やれ」
「兄上……」
朔馬は何事かを言い募ろうとした。が、想いのたけは白い喉の奥へ消え失せるのみ。
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