晩酌と猫

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 そこで、とうとう我慢できなくなったのか、にゃ、と抗議じみた声をだした。また、前足で僕の腕を押さえもした。肉球のやわらかさに心地よさを覚える一方で、飛びでた彼の鋭い爪の意味するところを鑑み、はいはいわかったよ、とマグロの刺し身を少しちぎってやる。彼はパクリと一口で平らげ、満足したとばかりに長いしっぽで僕の腕を撫でつけ、自分の寝床へと戻っていく。  僕は二本目のビールを空け、いい酔い心地で、マグロの刺し身を楽しむ。そうやっているうちに、アルコールの作用か尿意を覚え、トイレに立つ。  数分後に帰ってくると、あったはずのマグロの刺し身は見事に姿を消し、代わりに五右衛門が食卓の上でバツの悪そうな表情を浮かべている。そのなんとも言えぬ顔を肴に、僕は三本目のビールに伸ばした。  相変わらずのマヌケな泥棒猫っぷりだが、それもまた五右衛門の魅力なのである。
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