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第1話
「バカヤローてめえなんざ噺家辞めちまえ!」
師匠の小言と同時に扇子が俺の額目掛けて飛んで来る。扇子は思い切り俺の額にぶつかった。
「今日はもう辞めだ。もっと稽古して、ちったぁマシになったら見てやる。そろそろ寄席に行く時間だ」
師匠はそう言って壁の時計を見ると大きな声で
「小ふな!」
と弟弟子を呼んだ。
「はい師匠、支度は出来ています」
小ふなは師匠の高座用の着物が入ったカバンを手に下げていた。俺と違ってこいつは要領が良い。全てに渡って不器用な俺とは大違いだ。
俺の名は小金亭鮎太郎。昨年やっと二つ目になった噺家だ。師匠は小金亭遊蔵。古典落語の名手でその名は全国に鳴り響いている。長い間弟子を取らなかったのだが、何故か数年前から弟子を取るようになった。俺はその最初の弟子で所謂、総領弟子と言う訳だ。最初の弟子だからか、俺に対しては厳しく、見習い一年、前座を通常なら二年ぐらいなのだが三年やらせられた。そしてやっと二つ目になったのだった。
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