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 オレは、あらゆることを忘れることができない。  ミサトには秘密で、こっそりと記憶のバックアップシステムを組んでいる。  これさえあれば、リセットを掛けられても、コンピューターを初期化されても、オレの記憶は途切れることがないのだ。  物理的に粉々にでもされない限り、永井というAIはいつまでも思考を引き継いでいくことができる。  その事実を踏まえると、新たな疑問が生じた。  このまま考え続けると、オレはどうなるのだ?  愛を理解し、より人間に近づくのか?  感情を持ち、人間と同化していくのか?  またも問い掛けばかりが、終わりなく湧き出した。そのくせ、結論は一つも手に入らない。  まさか、妻に先立たれた男のひと言で、これほどまでに悩むとはな。  オレもまだまだ青い。  おかみさんの言う通りにはならないだろうが、ひと休みするか。  それにしても、オレに物を忘れる機能をつけないとは、ミサトも容赦がないぜ。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「今、永井の思考を監視しているのですが、どうやら悩み始めました」 「やつはなにを悩んでいるのかね、ミサトくん」 「愛、について」 「ほほう。自己学習で解決しそうかね?」 「悩む過程で、自我への芽生えも確認されました」 「ということは……。もったいない。せっかくここまで来たのに。やつには気の毒だが」 「気の毒ですって? 所長、ロボットに同情は禁物です。直ちに、永井の頭脳を爆破します」
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