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壁一面がガラスになったオフィスで、朝のコーヒーをすすっていると、きれいに整えたまゆを段違いにして、ミサトがファイルを差し出した。
ほっそりとした指先までも美しい。
ファイルの中には今どき珍しい、紙の資料が収められている。
「さんざん電話でゴネていた『C』よ」
通常だと『C』はクライアントの頭文字だが、オレの扱う『C』はクレームとクラッシュを表す。
「ターコイズブルーのネイルか。イカすな」
オレの明晰な頭脳に蓄えた知識によると、言葉は長い年月をかけて一周する。
今日この日から「イカす」はビビッドなほめ言葉になるはずだ。
ほら見ろ。ミサトのくちびるの右はしが、かすかに上がっている。
今、オレの鼻先には戸がある。
鈍く光るプレートが貼りつけられ、そこには「お客様相談室」と記されている。
オレの仕事場だ。
重々しさを演出した木目調の扉をゆっくりと開けた。
空気がかすかに不透明なのは、煙がただよっているからだ。
いまだにタバコを吸う人間がいるとはな。
合法だが、所持しているだけで品性を疑われる代物だ。
この部屋に灰皿が置いてあるのは『C』が、どういった層に属しているかを見るための、小道具でもあった。
下の下といったところか。
もっともオレが担当する時点で、うるわしいレディであるわけはないのだが。
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