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「落ち着いて思い出して下さい。覚えはありませんか? お子様に転び方の指導をした」  オレが口を閉じると一拍おいて、額にカップがぶつかり、割れた。  ゲス野郎の頭は、知恵がまわることはないが血は昇りやすいらしい。  いくら淹れたてでも、インスタントではコロンの代わりにもなりやしない。   熱がりもせずにコーヒーを髪から垂らすオレの視線に気圧されたのか、『C』は頬をひきつらせるばかりで、声が出なかった。 「おみごと。器物破損が犯罪なのはご存知ですね。おもてにパトカーをご用意しております。ドライブを満喫して下さい」  現行犯逮捕用の格闘アンドロイドが室内に流れこみ、『C』の両腕をとった。  カエルの脳みそでは、暴れても無駄なことすらわからないのか。果敢にも殴りかかっている。  相手がロボットだから、拳をふるうことも平気なのか。  それとも生身の人間にも同じように手を上げるのか。  精神のクラッシュしたクレイマーの気持ちを理解したところで、スコッチが不味くなるだけだ。  考えるのは、やめだ。  膨大な情報から瞬時に適切なものを引き出せるAIのオレに、無駄な選択はない。
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