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「着替えて来る」 「相変わらず、手際がいいわね。男前が台無しだけど」  オレの見聞きしたものは、すべてリアルタイムでミサトに吸い上げられる。  腰に手を当てて小首をかしげるさまが小憎らしいほどセクシーだが、これでもこの女は研究所から派遣された、AI開発の超A級技術者だ。 「おかげでクレイマーのデータは順調に集まっているわ」 「世界に報告できるような発見はまだないが」 「そうね。初期にインプットした以上の収穫はない。でも、これはこれで、初期データで十分だという裏付けになる。有意義な資料よ」 「怒鳴るか、カップを投げつけるか。ありきたりすぎてつまらん。その点、昨日のやつは個性が光っていた。コーヒーを口から噴き出して、オレに目つぶしをするとはな。前世はきっとタコかイカだな」 「飛び込みの『C』がいなければ、今日の役目は終わりよ」  冷めた口調で会話をぶった切るミサトのくちびるが、また上がった。  あれからはもう出番がなく、今は居酒屋のいすに腰かけている。  この後は部屋に帰り、データのダウンロードと、蓄積した知識にスキャンをかけるだけだ。  機械のオレには、睡眠も食事も不要。生殖もしない。  しかし、人間の感情を理解することへの一助として、人間の生活を真似ることが、プログラムされている。  朝になれば一般の勤め人と同じように、通勤をし、決められた仕事をこなし、時間になったら帰宅する。  寄り道の居酒屋も、真似の一環としてミサトに勧められたものだ。  こんなことが、なんの役に立つのかと思いはしたが、女の頼みごとを断るほど無粋でないオレは、飲んでも酔わない酒を今日も流しこむ。  AIに人のことを思いやる機能は求められていない。  それなのに、感情を教え込もうとするのは、心の動きを読み取って、会社の利益になるよう、都合よく利用するためだ。  血も涙もない所業に思えるが、オレはしょせんロボット。  元より、あたたかなものは体の中に流れていない。
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