グリザベラのうわさ

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 佳奈の働いている美容室は定休日がない。だから休みの日はいつも不規則だ。  木曜日の晴れ渡った午後、スマホでメッセージを飛ばしても、ランチや買い物、まして愚痴に付き合ってくれる友人はいなかった。何をする気にもなれず、森羅寺の庭を見る気になったのも、コンビニに行ったついでだ。 「わぁ……」   五月の日差しの下、庭は花の盛りだった。デイジーは白、オールドローズはピンク。  佳奈は赤と白の小さな花を沢山付けた草の一群に目を留めた。案内板に「ホットリップ」と書いてある。 (可愛いな。縁日の金魚みたい)  色とりどりの花が咲く上を、モンシロチョウがふわふわと行き交っている。 と――――  ガサッとホットリップの茂みが揺れて、突き出た猫の手がモンシロチョウに伸びた。 (えっ?)  声を上げるより前に、モンシロチョウはふわりと上昇気流に乗って猫の手を逃れた。  ホッと佳奈が息を吐くと、ホットリップの花弁を散らしながら猫が姿を現した。大きな青い目に真っ白で長い毛足、大人の猫だ。 (きれいな猫だなぁ……飼い猫かな。でも首輪してないな)  じっと猫を見つめる佳奈と、猫の視線が合った。  警戒したのか、猫は花の根本に座り込んでしまった。きちんと揃えた前足をしっぽで隠してこっちを見る。そのしっぽの先が、佳奈を値踏みするようにパタン、パタンとリズムを取った。  なんとなくご機嫌を取らなくてはいけない気になって、佳奈は猫に近づいた。
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