グリザベラのうわさ

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 間近で見ると猫の毛並みの白さはまぶしいほどだった。その上、つやつやのふわふわだ。 佳奈は我知らず膝を折ってしゃがみこみ、猫に手を伸ばしていた。  パタパタ動いていたしっぽの動きが止まる。  真っ白な毛並みに指先が届く、と思った瞬間、 「にゃっ」  猫は佳奈の手を軽くはたいて逃げ出した。 「あ……」  佳奈の指先に残ったのは、痛みよりむしろ猫の肉球の温かさと柔らかさだった。  猫はホットリップの中に逃げ込むのではなく、花壇の間の散歩道をとことこ駆けてゆく。白いふわふわのしっぽが元気よく空を向いて揺れている。  不意に佳奈の脳裏に懐かしい記憶が甦った。色も毛並みもまるで違うけど、実家で飼っていた猫もあんな風にしっぽを立てて佳奈にすり寄ってきたものだ。  反射的に佳奈は猫の後を追ってふらふらと歩き出した。  とたんに、こちらの足音を聞きつけたのか、猫の足が速くなる。つられて佳奈の足も。  歩道に敷かれたウッドチップを踏み鳴らし、一匹と一人が花の間を縫うように駆けてゆく。 「なによ~、置いてかないでよ~」  冗談混じりでそう口にしたとたん、どっと目から涙が溢れ出した。 (あれ? もしかしてコレ泣いてる? なんで?)  佳奈はビックリして足を止めてしまった。涙はぬぐう先から次々に流れ落ちて頬を伝う。 あわててポケットを探ってもスマホがあるだけ。誰にもつながらない、冷たいスマホが一つだけ。 「やだやだ、なんで……」  気が付いた時には、佳奈は歩道の上にしゃがみこんで泣きじゃくっていた。  なんでこんなにうまくゆかないの。なんでこんなにひとりなの。  さわさわと草花の間を風が吹き抜ける気配がした。  佳奈のふくらはぎを、温かくて軽いものがなだめるように撫でた。
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