月夜に出会った子猫

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 今日も課長に怒られた。  デキる女に憧れてて、田舎を飛び出し早7年。  気付けば三十路は目前で、誰も待たぬマンションへ帰る。  帰り道のコンビニでサンドイッチとホットコーヒーを買う。4月の夜はまだ冷えるので暖かい淹れたてコーヒーが帰るのはありがたい。  誰もいない静かな夜の公園で夜空を見上げながら、質素なディナーをするのが最近のマイブームで、いつものベンチに腰掛けた。  今夜は満月、月が綺麗。  3切れ入りのサンドイッチをひとつ、ふたつと味わい、最後のひとつに口をつけようとしたとき、足元に小さな影が近づいてきた。  野良の子猫だ。  灰色っぽい毛色で、鼻から下や脚あたりが白いかわいらしい子だ。  きょとんとして私が見ていると、子猫は怯えることなく私の隣のベンチに飛び乗った。 「にゃ~」  子猫は私を見上げて鳴いた。  そして気づく。子猫が見ているのは私ではなく、手に持ったサンドイッチだと。 「欲しいの?」 「にゃ」  私が問いかけると、返事をするように短く鳴いた。 「だ、ダメだよ。猫ちゃんはね、こういうのは体に悪いんだよ」  私の言葉に構わず、子猫は私の膝の上に乗ってきた。どうやらサンドイッチを戴くつもりらしい。  このままではマズい!  私は咄嗟にサンドイッチ一口で口の中に押し込み、コーヒーで流し込む。  すると子猫は残念そうに、そのまま私の膝の上に丸まってしまった。  スカートに毛が・・・。  お腹が空いていたのだろうか、猫にはあまり詳しくないけど、この子は少し痩せているように感じる。その疲れたような子猫が、自分と重なって見えた。  その姿にいても立ってもいられなくなり、子猫を抱えてベンチの上に下ろして走り出した。振り返ると、子猫は私が座っていた場所に移動して丸まっている。そこが暖かいのだろう。  先ほど夜食を買ったコンビニはすぐ近くだ。
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