第1章

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 かろうじて、涼しい。  それでもうなじは汗でべたべただ。  ブルーシートとダンボールの隙間から見える外は青いフィルムをかけたように薄暗く、夜と朝の気配が混ざりあっていた。  満男はのそりと半身を起こすと、なにげなくふくらはぎを掻いた。浅黒い皮膚がぷくりと膨れていく。  やぶ蚊にやられたか。痒みが増して参ってしまった。ブルーシートでしっかり入り口をふさいでおけばいいのだが、夏はそうもいかない。なんせ暑い。  すっかり色褪せた水色のタオルを手に取り、少し悩んでから百円玉と十円玉をポケットにねじこんだ。  公園で顔を洗ったら、そのままコンビニに行って酒を買おうと思った。紙パックの酒は安くて酔えるからいい。ついでに、商品を選ぶふりをしてゆっくり店内を回れば、冷房で体がすっきりするだろう。  それに、いまの時間なら公園の水道を使ってもだれも文句を言わないし、道を歩くとき直射日光にじりじり灼かれることもない。  一畳半ほどの我が家から這い出すと、吐息だけの鳴き声が聞こえた。
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