プロローグⅡ

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プロローグⅡ

 森山正平はここ数日食事が喉を通らない。原因は勿論、夏休み中のあの事件だ。正平はサトを苛めていた中心グループの一人だったが、サトを苛めることに対して楽しみがあったわけではない。サトを一番手酷く苛めていたのは、クラスのボス格である渡野木ひろしだったが、正平はひろしの子分的な立場で、なんとなくサトへの苛めに参加していたに過ぎない。主に中心だってサトを苛めていたのは、ひろしと右腕の岳人(たけひと)、高橋京子という女子の三人だ。自分はその他大勢の部類。そう思うようにしていた。事実クラスのほとんどの人間は直接サトを無視したり、ひろし達の酷い行為に対して、見て見ぬふりを決め込んでいた。  あの事件の直後、正平達4人は口裏を合わせた。5人で遊んでいたら、偶然あんなことになってしまった…と。担任は特に疑わなかった。サトがクラスで苛めにあっていることには少なからず気が付いているはずだが、普段から積極的に生徒の問題に関わろうとしない教師であったがため、面倒は御免だと思ったのかもしれない。 今日が2学期の始業式だったが、正平はまだ3人と口を聞いていない。下手に話しかけてあの時の話題になるのが怖かったからだ。苛めのリーダー的存在だったひろしは流石に動じている様子なく、普段通りだ。岳人と京子は正平と同じくどこか雰囲気が暗い気がする。そして、やはりと言うべきかサトの姿は教室にはなかった。 いくら考えないようにと思っても駄目だ。あの時のサトの表情が正平の脳裏に深く刻み込まれていた。  泣き叫びながら地面に転げ回る血まみれのサトを見て、正平達4人は恐ろしさのあまりサトを放置して校舎に逃げ込んだ。3人は、どうするんだ、とか、関係ない、とか、事故なんだ、とか、そんな話を焦燥感に苛まれた様子で口にしていたが、正平は流石に放置したままではまずいと思い、サトの様子を確認するために戻った。正平が下駄箱の影から外の様子を伺うと玄関近くにサトが倒れていた。サトが倒れている周囲に血だまりが出来ているように見えた。正平は口をパクパク動かしながら体を震わせた。 (だ、だれか呼ばないと)そう思ったが体がうまく動かない。視線の先のサトの顔がゆっくりと動いた。サトの視線が下駄箱の裏から半身だけ覗かせている正平の顔を捉えていた。  
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