2/2
前へ
/5ページ
次へ
 先輩は、突然驚いたように言葉を失う。目を丸くし、じっと僕を見ていた。 「え、ええと……先輩?」 「え? あ、ああ……うん……ごめん……」  すると今度は、表情を伏せてしまった。さっきまでの勢いはどこかへ行き、視線を泳がせる彼女。 「ね、ねえ……それってさ、景色のこと……だよね?」 「え?」  あまりに当たり前すぎて、今度は僕が呆けてしまった。 「い、いやいいの! なんでもない! なんでもないから……!」  先輩は慌ててそう言うと、持っていた紙コップのジュースを一気に飲み干す。  そしてそのまま、空を見上げた。 「……本当だね。凄く、綺麗だね……」  先輩は笑顔を浮かべる。その頬は、どこか桜色に染まっているように見えた。そして彼女は、静かに口を開く。 「……あのさ、あんな綺麗な月、見たことある?」 「さぁ……分かりません」 「私さ、あんな月、初めて見た気がする。これまで何度も見たことがあるはずなのに、今日は特別に見えるなぁ……」  先輩は、顔を僕に向ける。そして、少し照れ臭そうに微笑んだ。 「……あんな月が見れたらさ……死んでもいい、かな……」  思考が固まる。  先輩が口にした言葉のインパクトが大きすぎて、すぐに整理できなかった。 「………………え゛っ?」    遅れて出たその言葉を聞き、先輩は声を出して笑った。 「アハハ……! ごめんごめん。驚いた?」 「そ、そりゃ驚きますよ……突然そんなこと言われたら……」 「ふふ。後輩くん、まだまだ修行が足りないようだねぇ」 「修行?」  言ってる意味が分からず、首を傾げる。 「なんでもないよ。それより、あっちに行こ。なんか話が盛り上がってるし」  そして先輩は、そそくさと立ち上がり僕の腕を引っ張る。 「え? え? 急にどうしたんですか?」 「いいからいいから。ほら、早く」  そのまま僕と先輩は、話の環の中に飛び込んでいった。  月灯りの下の宴は、まだまだ終わりそうにないようだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加