1人が本棚に入れています
本棚に追加
①
校舎の隙間を吹く夜風が体を通り抜けると、目の前に桜の花びらが舞い降りた。
紺色の空の下で鮮やかな桜色は映え、揺れ動く木々は囁くように音を鳴らす。明かりこそ少ないが、頭上に浮かぶ月からは優しい光が降り注ぎ、暗がりの中に幾つもの影を伸ばす。眼の前では同級生や先輩達が雑談をして、笑い声を響かせる。誰かが持って来た小さなスピーカーからは、B'zの『今夜月の見える丘に』が流れ、花見にちょっとしたBGMを添えていた。
皆と少し隙間を空けて座っていた僕は、耳に入る歌を口ずさみながら、紙コップに注がれたオレンジジュースを一口飲む。
(なんで花見なんだろ……文芸部、関係ないし……)
……そう、僕達は文芸部の一行だった。
誰かからというわけではないが、部活中の会話の中で、花見をしようという流れになった。そしてその開催場所だが、桜が並ぶ学校の中庭ですることに。本来であれば到底認められるものでもないことのように思えるのだが、理解ある顧問の先生は、夜遅くまでしない、ゴミを散らかさない、うるさくしないという三つを条件に、許可を出してしまった。
正直に言えば、僕がここにいるのは場違いだろう。本来僕は、文芸にほとんど興味がない。執筆はおろか、小説を読むことも少なく、文芸部が何をする場所なのかも分からず入部した。
それがなぜか……その理由は、実に浅はかなものだった。
最初のコメントを投稿しよう!