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「――楽しんでる?」  ふいに後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには、微笑む先輩の姿が。 「ええ、まあ……そこそこに……」 「ねえ、隣座っていい?」 「え? あ、どうぞ……」 「ありがと」    そして先輩は、僕の隣に座る。  横目で先輩を見つめる。長い黒髪は艶を出し、風に靡くと、仄かにシャンプーの香りを漂わせる。少し太い眉と整った顔立ちはとても凛々しく、いつまでも、見ていたいと思えるものだった。  ……僕がこの部活に入った理由は、彼女である。それどころか、家から遠い距離にあるこの高校を選んだ理由も、先輩が通っているからだ。  元々先輩とは小さな頃から面識があった。幼馴染というわけではないが、比較的家が近所にあり、顔を合わせることも多かった。  いつからかは分からない。分からないけど、僕は、先輩に憧れていた。  もちろんその気持ちを口にしたことはない。まるでストーカーのように、高校、部活と先輩を追いかけたなんて知られたら嫌われるかもしれない。そうなった時のことを考えると……とても、言えるわけもなかった。  先輩は、とても明るくて優しい人だ。だからこそ同級生や後輩に慕われているし、おそらく、密かに彼女に想いを寄せている人もいることだろう。  そんなライバルが多い中、なんの取り得もない僕なんかじゃ到底太刀打ちできるはずもない。  だからこそ、卑怯にも僕は、こうして同じ部活の先輩後輩という立場に甘んじていた。
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