4.雨に消える慟哭

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◇ 「あ、いたいた。西條さん」 放課後。いつも以上に気配を消して、急いで教室を出た私は、昇降口を出ようとしたところで佐尾くんに呼び止められた。 背中から聞こえてきた邪気のない明るい声に、ビクリと身体が震える。けれど、敢えて振り返らずに歩を速めた。 「西條さん、ちょっと待ってよ」 私が気付いていないと思ったのか、佐尾くんの声が追いかけてくる。 「西條さん、待ってってば」 いつもなら、しつこく追いかけてくる声を無視しきれずに、最後に振り返ってしまう。だけど、もう振り返っちゃいけない。 初めから、何があっても振り返っちゃいけなかったんだ。それなのに、私が間違えていた。勘違いしていた。 「西條さん!」 足音とともに近付いてくる声を無視して、昇降口の軒先でスクールバッグから取り出した傘を開く。 そのまま雨空の下に一歩踏み出そうとしたとき、左側の肩が乱暴につかまれた。
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