192人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
「あ、いたいた。西條さん」
放課後。いつも以上に気配を消して、急いで教室を出た私は、昇降口を出ようとしたところで佐尾くんに呼び止められた。
背中から聞こえてきた邪気のない明るい声に、ビクリと身体が震える。けれど、敢えて振り返らずに歩を速めた。
「西條さん、ちょっと待ってよ」
私が気付いていないと思ったのか、佐尾くんの声が追いかけてくる。
「西條さん、待ってってば」
いつもなら、しつこく追いかけてくる声を無視しきれずに、最後に振り返ってしまう。だけど、もう振り返っちゃいけない。
初めから、何があっても振り返っちゃいけなかったんだ。それなのに、私が間違えていた。勘違いしていた。
「西條さん!」
足音とともに近付いてくる声を無視して、昇降口の軒先でスクールバッグから取り出した傘を開く。
そのまま雨空の下に一歩踏み出そうとしたとき、左側の肩が乱暴につかまれた。
最初のコメントを投稿しよう!