4.雨に消える慟哭

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軽い痛みに顔を歪めたのも束の間、強い力で引っ張られて傘ごと後ろに振り向かされる。 驚いて見上げると、いつも笑っていることの多い佐尾くんが、眉間に皺が寄るくらいに眉根を寄せて、怒っているような、それでいて今にも泣き出しそうな、なんとも言いようのない表情で私の前に立っていた。 「西條さん、聞こえてて無視してない?」 訊ねられて、すぐに否定できなかった。 「途中までいれてくれる? 傘忘れちゃったんだよね」 拒絶するように視線をそらした私に、佐尾くんがいつもよりも切羽詰まった声で問いかけてくる。 「そう」 俯きながら短くそう返すと、私は傘ごと佐尾くんに背を向けた。
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