192人が本棚に入れています
本棚に追加
軽い痛みに顔を歪めたのも束の間、強い力で引っ張られて傘ごと後ろに振り向かされる。
驚いて見上げると、いつも笑っていることの多い佐尾くんが、眉間に皺が寄るくらいに眉根を寄せて、怒っているような、それでいて今にも泣き出しそうな、なんとも言いようのない表情で私の前に立っていた。
「西條さん、聞こえてて無視してない?」
訊ねられて、すぐに否定できなかった。
「途中までいれてくれる? 傘忘れちゃったんだよね」
拒絶するように視線をそらした私に、佐尾くんがいつもよりも切羽詰まった声で問いかけてくる。
「そう」
俯きながら短くそう返すと、私は傘ごと佐尾くんに背を向けた。
最初のコメントを投稿しよう!