4.雨に消える慟哭

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「そう、ってなんだよ。いれてくんないの?」 歩き去ろうとする私の行手を阻むように、佐尾くんが傘の柄をぐっとつかむ。 「だって、この前傘にいれたときに話したじゃない。今回限りだって。次はちゃんと傘を用意してって」 冷たい声でそう言って、つかまれた傘の柄を奪うように自分に引き寄せる。 「わかった。じゃぁ、次はちゃんと用意するから、今回だけはいれてよ」 戯けたようにへらりと笑うくせに、佐尾くんはつかんだままの傘の柄を離そうとしない。 軒先に斜めに吹き込んでくる雨で、佐尾くんの明るい茶色の前髪が濡れて、重たそうに額に張り付いていく。 そんな姿を見てしまうと、いつも、どうしようもなくなって傘を差し出してしまう。 「今回限りだから」と、小さな口にしながら、最終的に佐尾くんを受け入れてしまう。 でも、今日の私にはそれができなかった。 また、清水さんに見られるかもしれない。そう思ったら、これまでみたいに気安く佐尾くんに傘を差し出せない。
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