4.雨に消える慟哭

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佐尾くんが清水さんの傘を差して、その下でふたりが寄り添うように肩を並べて歩く。その光景を想像することはとても容易だったし、想像の中のふたりは私が思う以上にお似合いだった。 清水さんとひとつの傘に入って歩く佐尾くんに、好奇の眼差しを向ける人はきっといない。そこに並ぶのが私だったらフツリアイ極まりないけど、清水さんなら文句なしに均衡がとれてる。 いくら佐尾くんに頼まれたからって、彼が傘を持っていなかったからって、彼にフツリアイな私が何度も傘を差し出すべきじゃなかった。 不相応だったんだから、清水さんに調子に乗ってるって思われたとしても仕方がない。 傘の柄を握りしめて何度も深呼吸を繰り返していると、ようやく心が落ち着いてきた。 早く家に帰らなきゃ。少しでも早く、冷えた身体を温めたい。 そうして温かい紅茶を飲みながら、部屋で好きな本を読んで過ごそう。 こんな、雨の日は。
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