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「西條さん、待って。やっぱり何か怒ってるよね? 俺、気に触るようなことした?」
私の逃げ足よりも、追いかけてくる佐尾くんのほうが速い。すぐに追いつかれて、佐尾くんが私の上に傘を差す。
その気遣いが煩わしくて、私は近付いてきた彼の腕を乱暴に押しのけた。
「怒ってるとか、そういうんじゃない」
「じゃぁ、何?」
「私はショコラでも茶太郎でもない」
佐尾くんのことを睨むように見つめて、キュッと唇を噛みしめる。
怒っているわけじゃなくて、これ以上は佐尾くんに同情されたくないだけだ。虚しくて、哀しい気持ちになるだけだから。
一刻も早く佐尾くんの前を離れたくて、雨の中を駆け出す。
佐尾くんから逃げ出したい、と。それしか考えていなかった私には、周りなんて何も見えていなかったし、降りしきる雨の音以外は何も聞こえていなかった。
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