4.雨に消える慟哭

24/36
前へ
/201ページ
次へ
「西條さん、待って。やっぱり何か怒ってるよね? 俺、気に触るようなことした?」 私の逃げ足よりも、追いかけてくる佐尾くんのほうが速い。すぐに追いつかれて、佐尾くんが私の上に傘を差す。 その気遣いが煩わしくて、私は近付いてきた彼の腕を乱暴に押しのけた。 「怒ってるとか、そういうんじゃない」 「じゃぁ、何?」 「私はショコラでも茶太郎でもない」 佐尾くんのことを睨むように見つめて、キュッと唇を噛みしめる。 怒っているわけじゃなくて、これ以上は佐尾くんに同情されたくないだけだ。虚しくて、哀しい気持ちになるだけだから。 一刻も早く佐尾くんの前を離れたくて、雨の中を駆け出す。 佐尾くんから逃げ出したい、と。それしか考えていなかった私には、周りなんて何も見えていなかったし、降りしきる雨の音以外は何も聞こえていなかった。
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加