4.雨に消える慟哭

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佐尾くんを振り払って道路の真ん中に飛び出しかけた私に向けて、クラクションが鳴らされる。 そのとき初めて、一台の車がゆっくりとこっちに向かって走ってきていたことに気が付いた。 ハイビームに顔を照らされて、時が止まったかのように身体の動きも止まる。 車の走る速度はゆっくりだから、後ろに下がればまだ充分に避けられる。頭でそんなことを冷静に考えている自分がいるのに、身体が咄嗟に動かない。 雨の音と、目の前を照らす眩い光。それが、いつかの記憶を呼び起こして私を金縛りにさせる。 「西條さんっ!」 動けなくなっている私の耳に、不意に悲鳴のような叫び声が届いた。 つかまれた腕が強い力で後ろに引っ張られたかと思うと、そのまま身体ごと覆うように包み込まれる。 眩かった視界が一気に真っ暗になり、タイヤが擦れる音がすぐそばを通り過ぎていく。
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