4.雨に消える慟哭

26/36
前へ
/201ページ
次へ
「大丈夫?」 聞こえてきた声に顔をあげると、佐尾くんがすぐ間近で不安そうな表情を浮かべていた。 はっと視線を巡らすと、折りたたみ傘がそばに転がり落ちていて、私は佐尾くんに身体ごと全部抱きしめられている。 佐尾くんが、動けなくなった私を助けてくれたの……? 「びっくりさせるなよ。ほんと、危ない」 茫然と見上げる私を、佐尾くんが勢いのままにぎゅっと胸に抱き寄せる。 「いっ……」 その衝撃で、佐尾くんの胸に額をぶつけた私が間の抜けた声を出すと、慌てたように私の肩をつかんで、勢いよく胸から引き離した。 「あ、あー。ごめん……。また、ついやっちゃった。おでこ、大丈夫?」 無防備になっていたところに、佐尾くんの手がすっと額へと伸びてくる。制止する暇もないままに、佐尾くんの手が私の濡れた前髪をかきあげたから、全身が一気に冷たくなった。
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加