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「……やっ」
絶対に触れられてはいけなかったのに。気が抜けて、油断した。
焦る気持ちが強すぎて、思考がうまく回らない。薄く開けた唇からはただ空気が漏れるだけで、喉からうまく声が出ない。
ダメ、ダメ、ダメ……。見ないで!
青ざめて泣き出しそうになる私を、佐尾くんが哀しそうな目で見下ろす。
その目を見れば、佐尾くんも気付いたんだってすぐにわかる。
誰にも触れられたくない。ずっとずっと、真っ直ぐに落とした前髪の下に隠してる秘密。
「さ、わらないで……」
「西條さん?」
「触らないで!」
「西條さん、落ち着いて」
「触らないでっ!」
気付けば、泣きながら大声で叫んでいた。
しばらく躊躇った後に、佐尾くんが全身を震わせて悲鳴をあげる私から少しだけ距離をとる。
「西條さん、大丈夫?」
佐尾くんが何度も心配そうに尋ねてくれたけれど、私は彼の声を聞きたくなくて、両手で耳を塞いだ。
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