4.雨に消える慟哭

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◇ 「車で送ってやろうか?」 乾いた制服に着替えて帰る準備を整えていると、別室で仕事をしていたトモくんが声をかけてきた。 「大丈夫。まだそんなに遅くないし、ひとりで帰れるよ」 ただでさえ仕事の途中で迎えに来てもらったのに、これ以上仕事の邪魔をするのは申し訳ない。 トモくんの申し出を断って玄関に向かうと、ショコラが珍しく私の見送りに出てきてくれた。 靴を履いていると、私の足首に纏わり付いて長い尻尾を絡めてくる。 「今日はやけに優しいね。どうしたの?」 笑いながら尋ねると、ショコラは澄ました顔で私を見上げてツンと顔をそらした。 どういう気まぐれなんだろう。 笑顔を苦笑いにかえて、その場にしゃがみ込む。 そっと撫でてやると、私の足元に腰を落としたショコラが気持ちよさそうに目を細めた。その顔を見つめながら、ふと佐尾くんのことを思い出す。
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