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その瞬間、はっとした。
明るい茶髪の男の子の前にあったのは小さな段ボール箱で、その淵から茶色の子猫が顔を覗かせていたのだ。遠くからは不自然に開いて置かれているように見えていた傘は、箱の中の子猫を雨から守るように翳されている。
つい立ち止まると、茶髪の男の子が私の気配に気づいて振り返った。
「あ……」
思わず声をあげたくなったのは彼も、同じだったようだ。
次の瞬間、ほぼ同時に。たぶん初めて、お互いの名前を呼び合ったと思う。
「西條さん!」
「佐尾くん?」
猫の入った段ボール箱の前に座り込んでいたのは、クラスメートの佐尾 悠飛だった。
ちなみに、私と佐尾くんは同じ中学出身でもあるのだが、これまでに一度も会話をしたことがない。
高2になった今年、初めて同じクラスになったのだけど、今この瞬間まで、挨拶をしたこともなければ目を合わせたことすらなかった。
だから、彼が私の名前を把握してくれていたことに正直驚いた。
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