5.優しい雨予報

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「お、おはよう。佐尾くん!」 勇気を振り絞って普段よりも大きな声を出したら、佐尾くんが立ち止まって、驚いたように振り返った。 私を見つめる佐尾くんの目が、大きく見開かれているのがわかる。その表情を見たら精一杯の勇気なんて一瞬にして萎んでしまった。 声をかけたことを後悔したけれど、自分から呼び止めた以上、ここで会話終了というわけにもいかない。 「あ、あの……傘を受け取ったので。どうもありがとう……」 視線をうろうろさせながら、とりあえず折りたたみ傘のお礼を伝えてみる。 そうしたら、佐尾くんが嬉しそうに思いきり破顔したから、目の前が急に眩しくなったような気がして、頭がクラクラした。
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