5.優しい雨予報

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私と向かい合って立ち尽くしたまま、もどかしそうな表情を浮かべている佐尾くん。そんな彼が何か話し出すのをジッと待っていると、しばらくして、彼がゆっくりと私に話を切り出してきた。 「この前、西條さんがタオルを俺の靴箱に入れようとしてたとき、『こそこそせずに直接返してくれればいいのに』って言ったじゃん? だけど、こそこそしたくなる気持ちが少しわかった」 「うん?」 話の意図が見えなくて首を傾げると、佐尾くんが苦笑いした。 「最初は、西條さんに直接傘を返そうと思ってたんだよ。だけど、西條さん、あれから全然学校来ないし。余計なことして嫌われたのかな、とか、俺のせいで学校来れなくなってるのかな、とか、気になっちゃって……」 「ごめん。普通に風邪で……」 「うん。それ聞いて、良くないけどよかったって思ってほっとした。西條さんに嫌われたのかなって思ったら、直接傘を返す勇気なんて全然湧いてこなくて。『こそこそするな』って言ったのは自分のくせに、西條さんの靴箱の中にこっそり傘を入れとくことしかできなかった。あのときは、無神経なこと言ってごめんね」 佐尾くんが、ふっと息を漏らしながら力なく笑う。いつも人の輪の中心にいる彼でも、私と似たようなことを思うなんて。佐尾くんの弱々しい笑顔に、胸がギュッと狭まった。
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