5.優しい雨予報

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なるべく気配を消して椅子に座ったはずなのに、私に気付いた佐尾くんが、清水さんたちとの会話をやめてこちらに視線を向けた。 視線が交わって、佐尾くんがほんの少し笑う。その様子を、清水さんが不満気な顔で見ていた。 こんな状況で、間違っても佐尾くんに笑い返したりなんかできない。 最低でも睨まれるだろうことは確実だと思ったから、私は佐尾くんから顔を逸らして、彼の笑顔に気付かなかったふりをした。 それでも、清水さんはしばらく私の様子を窺っている。きっと腹の中では、私に言いたいことがいろいろとあるのだろう。 明らかに好意的ではない清水さんの視線を感じて、憂鬱な気分になる。 同じグループにいる以上、清水さんや佐尾くんと全く関わらないわけにもいかない。だけど、せめてなるべく目立たないようにしようと心に決めた。 材料を切ったり、火を使ったり、そういう実習のメイン部分は清水さんたちに任せて、私は食器運びとかお皿洗いとか、裏方の仕事に徹すればいい。
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