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「あ、ありがとう」
見上げた佐尾くんが、にこりと無防備に笑いかけてくる。人懐っこいその笑顔にドキリとして、私は慌てて彼から視線をそらした。
「なんか猫の鳴き声がするなーと思ったら、段ボールから顔覗かせてるこいつと目があったんだよね。近づいてみたらこいつの体も段ボールの中もびしょ濡れでさ。このまま雨に打たれ続けたら凍え死ぬんじゃねーかと思って。そしたら、ほっとけなくなっちゃった」
佐尾くんが子猫に視線を向けたまま、私に話しかけてくる。
そらした視線をそっと戻したら、子猫を見つめる心配そうな佐尾くんの横顔が見えて、ほんの少し胸がざわついた。
「それで、傘を?」
段ボールの猫を庇うように地面に置かれた黒い傘。それを見やりながら尋ねると、彼が小さく頷いた。
「そう。他に方法思いつかなくて」
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