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「西條さん、どっち行けばいい?」
両腕で抱きかかえた子猫を胸に引き寄せながら、佐尾くんが振り向く。彼の横顔に見惚れていた私は、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。
「あ、えっと、こっち!」
佐尾くんからさりげなく視線を外して、今歩いてきた方角を指差す。
「しばらくまっすぐ?」
小首を傾げている佐尾くんに、小さく頷く。
「了解」
笑いながらそう言うと、佐尾くんが先に歩き始めた。
子猫が濡れないように胸にしっかりと抱いて、その体を全力で守っている佐尾くん。
だけど、彼自身は頭から容赦なく雨を受けていて。明るい茶色の髪も、制服のブレザーも風邪をひかないか心配になるくらいに濡れていた。
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